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真っ青な空に、真っ白な入道雲。 横たわる巨大廃ビル群に、広がる砂漠。 昨日は雨が降った。 雫は青と白に染まり、彼女の刀身に落ちる。 彼女は艶やかな黒髪を、真紅の紐で結う。 それは同じ日の繰り返しか、それとも新たな物語の始まりか。 彼女は今日も刀を見つめる。 真っ青な絵の具をたらし続けたような空に、彼方の入道雲が映える。 彼女が知る限り、あの巨大な雲はそこに見えなかったことはない。 彼女は、まるでそれに張り合うかのように高く、そして広くわき上がる廃墟ビル群の内の一つで、いつもそれを見つめていた。 雫が、落ちる。 昨夜は雨だった。 彼女は座りながら肩にかけて持っていた刀を床に置き、髪を結い始めた。 真紅の紐を口でくわえ、丁寧に、丁寧に、彼女にしては手際が悪いほどの早さで結う。 艶やかな黒髪が、鮮やかなそれと見事に融け合っていった。 それは安らぎの時間か、それとも過去にその紐で髪を結っていた者への贖罪か。 彼女は髪を結い終えると、すぐに左脇に置いていた刀を手に取った。 確かめるように、右手で何度か束を握る。 隣のビルに反射した光が、その横顔をより一層鋭く彩った。 涼やかな眉が、きつく結ばれた唇が、整った鼻が、意味を求める瞳が、静かに鳴いた。 風が強い。 地上から遙かに離れたこの階には、常に純粋な風の力が舞い踊る。 一側面の壁が丸々吹き飛び、吹き抜けになっているそこからは、風の鳴き声がする。 部屋は昔オフィスであったのだろうが、大昔の爆撃により今は原型もとどめていない。 彼女は立って、吹き抜けの方へ向かった。 柵などない。 だが彼女はあと一歩で宙に踏み出せる所まで進むと、その先に見える雲を睨みつけた。 一閃。 その剣撃は空を裂き、悠遠の果てにあるあの雲をも真っ二つにできたと思われた。 彼女は振り切った姿勢のまま、呼吸すらも停止する。 雫が、刀身に落ちる。 おかしい。 彼女は気付いた。 静かすぎる。 奇妙なことだが、異変を伝えるのはいつも音ではなく、静寂なのだ。 彼女は細く息を吸い、吐く。 飛んだ。 とんっと、彼女は青の中へ身を投じた。 ふわりと回転すると、身を翻して少しせり出た下の階へ入った。 着地するかしないかの内に、彼女は鞘を振るう。 積まれた瓦礫が崩れる。 そのまま鞘を離して刀を両手で握り、構えた。 そこにいたのは。 舞った煙が、収まる。 子犬だった。 彼女は思わず吹き出した。 表情が一瞬にしてゆるみ、笑みがはじけた。 不思議だった。 彼女自身、自分は笑い方も忘れてしまったかもしれないと思っていた。 「どうしたお前。こっちに来るか？」 笑みは穏やかになり、震える子犬に手招きする。 子犬には、片方の耳がなかった。 彼女は、久しぶりに声を出した。 |