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広い砂浜に、二人。 波の音と共に流れる時間。 幸せなというよりも、それは二人の時間。 大切な思い出というよりも、それは時がくれた宝物。 二人でいることがひどく自然な、たった二人の物語。 病み上がりの君は、何だか危なっかしく砂浜におりました。 「まったく、夏風邪なんてついてなかったな」 空が群青色で、信じられないほど高いです。 砂浜はどこまでも続いているくせに、海はとても近く感じます。 私たちは、ビーチパラソルを一本立てました。 「車、あんなとこに置いてきてよかったの？」 「いいのいいの。どうせあんな道路めったに車が通らないんだから」 君は少し鼻をすすりながら答えました。 私はシートを敷いて、そこに寝転がります。 「さぼるなー」 君はかついでいたクーラーボックスをおろすと、中からでっかいスイカを出しました。 しかも片手でつかんで。 私はそう言うところがとても好きだったりします。 「うーん、あぁ、そかそか」 しばらくスイカとにらめっこしていた君は、忘れ物に気付いたようです。 面倒くさそうに車の方へ行ってしまいました。 私の方は体を起こすと、じっと海を見ました。 今感じるこの風が、あの水平線の向こうから吹いてきている気がします。 ふっと振り向きました。 車に行った君が、本当に戻ってきてくれるか心配になったのです。 ……見えません。 焦って立ち上がろうとしたとき、君が車から出てきました。 「心配かけさせおってー」 遠くの君を見ながら、私はスイカを手に取りました。 「なー？」 あぐらの中に置いて、話しかけます。 ひんやりします。 「そうだ、君にこれをあげよう」 私はサインペンでスイカにサングラスを描いてあげました。 「似合う似合う」 「なーにやってんだ」 君が木刀やお皿を持って、戻ってきました。 「かっこいいでしょ？ スイカくん」 「そいつは今から俺たちが叩き割るんだぞ」 「えー」 「えーじゃない」 なむ、と手を合わせて、君はシートに座りました。 「そう言えば、美沙ちゃん連れてこなくてよかったの？」 かわいい妹さんです。 「あぁ、あいつ今日は友達ん家だから」 「残念」 でも、だけど、ちょっと嬉しい。 「あいつ、俺が風邪のときはお前がよくいたから喜んでたな」 「私はよくいじめられたあ」 「今度は俺が伝授してやったドロップキックで倒すって豪語してたぞ」 「もう、女の子になに教えてんの」 二人とも、海を眺めます。 「風、気持ちいいな」 「うん」 ここには二人しかいません。 ここには二人がいます。 |