『Mortal Onlineの景色』

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MMORPGが好きなんです。
人と世界と人々があって、本当に冒険が感じられる。

Mortalでは毎日こんなような事が起こっていました。
全く滅茶苦茶で、良いタイトルです。
MMOをやらなくなって月日が経ちましたが、冒険は色褪せませんでした。
またプレイしたいなと願いつつ、書き起こしました。

Written by JOEmasa



 町の周りで俺が狩りまくっていたガゼルが一切いなくなっていて、それはアップデートによって儲けの薄い猪になっていた。しかもその猪もまばらに出る程度で、見付けるのも難しいくらいだったから、俺はなけなしの金で買った剣を振り回しながら、正直新しいバランスにうんざりしていた。

 だだっ広い平原を当てもなく歩き回る訳にもいかない。だから俺は暇を持て余して、その辺にいる木こりに愚痴っていた。するとそいつが「お前強そうだから、ガゼルを狩れよ」と言って、何とガゼルがいる場所まで連れて行ってくれたんだ。ガゼルはいたのさ。町を降りていって、川が流れている方面の野原に。しかも湧きが早くて、どんどん狩れる。ただし、そこは開けたのどかな場所で、まあ俺が悪人だったら迷いなくPKハウスをわんさか建てて、一仕事終えた奴らからたんまり分け前をいただいてやろうって感じの所だった。

 そんな訳で、稼ぎは上々だったけど、すぐに他の場所を探し始めたよ。案の定、しばらくするとそこには赤ネームがうろつき始めていたな。じきに俺は、行きやすくて、人が全く来ていない穴場を見付け、そっちで狩りを始めた。充実した孤独な作業だった。だがふと気が付くと、向こうに貧乏ったらしい奴が一人立っていて、そいつがおずおずと話しかけてきた。

 そのオリックって男は、昨日始めたばかりのアーマースミスらしかった。ちょうどろくなものを着ていなかった俺が「じゃあ一つ作ってくれよ」と言うと、そいつは嬉しそうに、「町に帰ったら作る!」と息巻いていた。だが帰り道にはさっき見た赤ネームがいるだろうから、俺はオリックに気を付けろと忠告してやったんだ。するとオリックは恐ろしがって、「昨日も殺されたんだよ。もう違う町へ移ろうかな……」なんて弱気な言葉を吐き出した。

「しばらくガゼルを狩ったら俺も帰るよ。俺は剣を扱える。だから気を付けて一緒に帰れば、大丈夫」。そうして、俺達は一緒に帰る事になった。例によって、職人連中の脚はくそ遅い。オリックに警戒しろと繰り返しながら、木の陰や草むらを伝って、やっとの事で町まで辿り着いた。

「銀貨が50枚必要みたいだ」。ベンダーを回り、材料を調べてきたオリックが言った。アップデート後の銀貨50枚は決して安くはない。俺は稼ぎの中からそれを手渡すと、買い物にも付いていく事にした。その道すがら、「町中でも気を抜くなよ」と何度も言った。その言葉通り、やっぱりスリが現れた。こいつらはどこにだっているんだな。

 買い物に慣れていないオリックは、いとも簡単にすられてしまった。あいつは必死に追っかけたけれど、コソ泥はもう銀行に逃げ込んだ後だった。そんな訳で、50枚の銀貨はあっさり消えちまった。「ああ! どうしよう!」なんてオリックは頭を抱えていたが、人混みの中でわめくその姿は、絵に描いたようなカモだった。俺はとりあえず人気のない町外れまで連れて行ってから、「だから気を付けろと言ったんだ」と呆れ返った。

「あんな早さで盗めるもんなのか!? なあ、どこにいたって言うんだ!?」と、とにかく喋りまくるオリック。まあ、あいつの買い物は長すぎたよ。このゲームで町中、しかもベンダー前で五秒以上立ち止まっちゃあいけない。

「もっと早く盗めるし、もっとたくさん盗める。このゲームはシーフを愛してるんだよ。そしてシーフは生産者を愛してる」。そう言ってやると、オリックはカンカンに怒っていた。そして一通り憤慨すると今度はシュンとして、「もう、あんたが材料を買ってきてくれ。俺はどうしたらいいか……」と言い出した。俺は思わず肩をすくめて、「お前が買うべきだ。生産者なんだから。いずれやるんだしな」と、また銀貨50枚を手渡した。

「常に周りを見て、他人がいたら通り過ぎるまで買い物をするな。怪しい奴が来たら、立ち止まらずにとにかく動け」。そんなアドバイスをくれてやると、あいつは何とかやる気を取り戻した。ベンダー前には誰もいなかった。それを慎重に確かめ、「後ろを見ていてくれよ」といっちょ前の台詞を口にすると、奴は買い物を始めた。それは職人達が作業に入る際、依頼主に言う決まり文句のようなものだった。

「おい」。そう声を掛けたのは、怪しい人影が現れたからだ。そいつはふらふらと近付いてきて、おかしな動きをした。アップデートでスリや鞄覗きに動作が追加されたんだ。

 オリックは努力したのかもしれない。しかしまあ、遅かった。二、三度声をかけたくらいじゃ反応しなかった。そいつが急に走り出し、通りに駆け込んでいっても動かなかったので、追いかけていた俺はそのまま引っ返してきて、「おい、大丈夫だったのか?」と怪訝な顔をしていた。それでもオリックは黙ったままじっとしていたのだが、しばらくすると「no...」と口を動かして、しまいに「noooooo」と嘆き始めた。

 どうやら今頃になって事態を把握したらしく、「銀貨はどこにいったんだ!?」と自分の鞄をまさぐっている。そんなとんまに「今頃奴の銀行の中だよ」と教えてやると、「ああ、どうしたらいいんだ……」とがっくり落ち込んでしまった。そして目に涙を溜めるような様子で「もう怖くて、俺は買い物が出来そうもないよ……。あんたにとって銀貨100枚は貴重だったろう……?」などと言い始めたものだから、素寒貧の俺ももう何だかおかしくなってしまい、笑ってしまった。

「これがモータルオンラインだよ。ま、銀貨の事は気にすんな!」

 日本はもう夜中だった。この酷いゲームに、フレンドリストなんて気の利いたものはない。しかし哀れなオリックが今日で冒険を辞めてしまわなければ、また会う事もあるだろう。そう思いながらPCを落とすと、俺はベッドに潜り込んだ。

2014年12月3日